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「未来を育む」

六供ひよこ保育園インタビュ

 

 

 “感性”と“完成”を育む園舎

 

福島 僕が初めて井草さんのところで仕事したのは…ここの…

 

園長 事務所!

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福島 そう、事務所。が、最初で…すっごいよく覚えてますけど、他の業者が既に案を出してて…で、それがすごく安いんだ!って言ってて…そこに追いつくんだったらやってもらってもいいよって言う話だったんですよね。

 

園長 うんうん。

 

福島 で、それで色々考えてこんなんやったらおもしろいなぁって出来たのを持っていったら…

 

園長 うん。

 

福島 いいんだけど…ちょっと豪華すぎると。って言うのを井草さんのお父さんが理事長だったときに言われて…それで、直ちゃんちょっと悪いんだけどさぁ…ってなって…で、その時に…どういう話になったんでしたっけ?

 

園長 要は高崎の園舎の環境は申し分なかったけど、前橋の公立園だったこっちの園舎は高崎に比べると古くて冷たくて…そんな環境で事務所だけがいい環境になってはちょっと子どもたちにも申し訳ないし…保護者にも申し訳ないっていうことで…“あえて”外見を落としてモルタルそのままの外壁で仕上るということになって…。

 

福島 はい。

 

園長 だけど結果的にはそれでよかったなって思えるのは、建物としては出来上がって存在してるけど誰が見ても建築途中の様な感じで…それが手形がついたりだとか…漆喰を塗ってみたりとかだんだんと完成されていくような…建物自体がなんだか生きているというか…

 

福島 はいはい。

 

園長 あんまり完成された状態じゃなかったから…

 

福島 子どもの手で完成させるみたいな。

 

園長 そうそう。だから最初話してたこれ以上ここに無機的なものを入れるのは嫌だっていう。感性を育むべき保育園だからこそ子どもを取り巻く環境に配慮しないとおかしいっていうところで言うと、荒削りって言うか…未完成見たいな物が出来たことによってそれが体現できったって言うか。

 

福島 うんうん。建物の幅が広がりましたよね。

 

園長 そういうのあるよ。あの建物は生きているんだって子ども達が感じる。だからホントに“感性”を育むって、まさにそういうことだなって。

 

福島 おお(笑)すばらしい言葉が!

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園長 今って完成品ばかりの世の中じゃない?

 

福島 はいはい。

 

園長 自分で何かこう…思いを入れて作っていくっていうものがほとんど無いじゃない?

 

福島 はい。

 

園長 おもちゃだって、もう完結してるんだもん。ブロックなんかはそれを使って創作するって言うのはあるけど、でもそれって自分で作り上げたものとはちょっと違うじゃない。

 

福島 与えられた組み合わせだけですもんね。

 

園長 だけど、ここの事務所って言うのは子どもたちが年々こう…一緒に育っていく中で変わっていく可笑しなものって言うかさ。

 

福島 そこに参加する。

 

園長 そうそう。子どもたちが最終的に手形を貼り付けて参加するって言うさ、なんかこう…ストーリーがあるっていうか。

 

福島  うんうん。

 

園長 それはなんか、最初直ちゃんと話してた…理想っていうかさ、保育って物語だからそれがここで実現できてるっていうのがこの事務所なのかなって。

 

福島 うーんすばらしい!

 

園長 それがきっかけじゃん?それで、ようやくここまでこれた。あの冷たいコンクリート造りの小っちゃい学校がここまで変われたんだよ!

 

福島 うんたしかに、最初ホントにそうでしたよね。

 

園長 とてもじゃないけど乳幼児が生活する空間じゃなかったじゃん。もう、そんな環境が嫌で嫌で…だけどやっぱり少しずつだけどこう…木が入ってくることによって温かみが増すのはもちろんだけど、完全に生まれ変わったっていうか…

 

福島 だいぶ変わりましたよね。

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園長 うん、再生したっていうか。

 

福島 最初たしか職員室でさえ、どっかの会社の事務所みたいな

 

園長 ねずみいろの昔ながらの事務机が普段二人しかいない事務室に大量に並んでいて…(笑)

 

福島 そうそう笑 足元が寒くて…。で、ここやって…次は教室の中でしたっけ?で、屋根をやって、デッキやって…でしたよね。

 

園長 1階部分はほとんど手が入ったよね。

 

福島 そうですよね…。いやぁ、育ててもらったって感じですねぇ…。

 

園長 まぁホントに…育てたって感じだよね(笑)

 

福島 そうでしょ(笑)

 

二人 はははは(笑)

 

福島 最初やらせてもらった頃は始めてやることがけっこう多かったんですよ。で、全然終わんなくて!

 

園長 うんうん。

 

福島 で、夜中に警備員さんが来て!

 

園長 あったねぇ…あったあった。

 

福島 あったでしょ?(苦笑) いやぁ…これは申し訳ないなぁ…と思って。で、結構井草さんがまた…Sで(笑)すごい短い中でやろうよって!「ここの期間で出来るんだったらいいよ」「ああ!じゃあ行きます!」みたいな(笑) けっこうあって。

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園長 うんうん(笑)

 

福島 最初はホントに…なんというか…こっちも高ぶってるんですけど、それにも増して時間がすっごいかかっちゃって…ホントに育ててもらったなぁって感じしますね。

 

理想の保育をめざして

 

福島 井草さん、今後の展開って何か考えてるんですか?たとえば思い描いてる園のかたち。

 

園長 今はね…当たり前のことを当たり前にできる保育をしたいなって思ってるんだよね。今もやってるんだけど、もっと理論的、体系的な仕組みを作って。

 

福島 ああ…。

 

園長 たとえば、脱いだ靴をちゃんとそろえるとか…当たり前な事なんだけどなかなかできないことってあるでしょ。大人でもあるじゃない。例えば傘とか。

 

福島 はい。

 

園長 傘差しました。閉じます。きれいに折りたたんで、傘たてに仕舞う。そこまでできるようにね。それを当たり前にね。

 

福島 なるほど。

 

園長 しつけとは違うんだけど、そういうのが出来る人間…そこが習慣化しちゃうとさ、これずっと小学校行っても、大人になってもやるんだよ。そういう事が当たり前にできる人間って素晴らしいなって思うんだよ。

 

福島 はい。たしかにその一番の礎になってる感覚とか…大人になってどうも傘の畳みが悪いのを見ると気持ちが悪いなって思うのはこの時期の影響かもしれませんね。

 

園長 そう。部屋の隅に紙くずが落ちていたらそれに気付いてそれを拾ってゴミ箱に捨てられるとか、当たり前なんだけど、意外にできない。誰かがやってくれるっていう意識が働いて。

 

福島 ああ。

 

園長 それってやっぱり小さな頃からの習慣っていうかさ…生活の中に落とし込んで実践していかなきゃならない…だとすると、それをやるには家庭での協力も必要だよね。

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福島 そういうことですよね。

 

園長 そうすると、今の制度だとなかなか出来ない。

 

福島 …あっているかわからないですけど、それ以前の議論になっちゃうわけでしょ。そこを当たり前のように出来るようにして、その先の話をもっと保護者としたいわけじゃないですか。

 

園長 それもある。

 

福島 ゴミを拾う、靴を揃える…それをするためにはどうしたらいいのかというところに終始してしまうから先に行かないというか…

 

園長 そうね、方法論というか…

 

福島 そう、それを出来るようになった子どもが、もっとこういうふうに育っていったらいいよねという気持ちを保護者と共有できたら…

 

園長 そうなんだよ。ただ、共有するにはそこの前段階である程度同じ方向を向いていかないとその議論が出来ないんだよね。それが今の保育制度の中ではなかなかできない。その保育園の理念や方針に共感してくれた人たちというよりは、保育の必要性の高い人が優先される入園の仕組みだから。理念や方針に基づいて子どもたちに今ホントに何が必要なのかって言うのをしっかり伝えて、ある程度保護者にもルールを実践してもらうっていうか。

 

福島 ああ。

 

園長 今まで以上に保護者と想いを共有して、その中で子ども達が、自分で感じて、考えて、変えていく。

 

福島 そうですよね。感じて、そこで行動に移せる…と。

 

園長 それってやっぱり、小さな頃から生活の中で繰り返し繰り返し「それ、どう思う?」って。「やりなさい」だと駄目なんだよ。

 

福島 うんうん。

 

園長 「ほら、ゴミが落ちてる。ゴミ箱に捨てて」それだと学ばない。「あれ?あそこに落ちてるゴミ、どう感じる?」とかさ。そういう指導の仕方をしていかないと。靴だって脱ぎっぱなしになってたら「ねえねえ、あの靴見て。どう思う?」って聞く。多分最初は別になんとも思わない。

 

福島 はい。

 

園長 「もしさあ、遊んだあと外出るじゃん?その時、あれ履きづらくないかねぇ?」「ぐちゃぐちゃに脱いでると綺麗に見えないよね。」とかさ。そうすると「ああ、そうだよね」とか「そうすると、どういう風にしたらいいかな?」って聞く。「こうにしなさい」って教えちゃうんじゃなくて、もっと外側から…

 

福島 気づかせて…考えさせて。

 

園長 そう、直接的じゃ駄目なんだよおそらく。それを延々と延々と繰り返すんだよ。それをやるにはすごい大変なんだけど、だけどそれをしていかないと心と体には落とし込めていけない。伝わらない。

 

福島 それを保育士さんなんかに、ちゃんと伝えてそういう風にやっていこうってことでやってるってことなんでしょ?

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園長 そう、やろうとしている。

 

福島 まだ、過渡期でもある…

 

園長 いまはそのためのプランを作っているところ。ただ、それをやるには保育士の協力も必要だから、時間をかけて練っていかないといけないんで…。思いはそうだっていうのは伝えたんだよ。で、実際にどうやっていくかっていうのをいま考えているところ。

 

福島 そうか…ぼくなんかは井草さんのこと見てて、随分自由にやってるなって思ってたわけですよ。自分が思ったことを自由に表現できてるなと。

 

園長 ああ…。

 

福島 そうでもなかったんですね…。闘いながらやってたんですね。

 

園長 すごい闘ってたよ。だけど、これからも闘っていくんだろうけど。

 

福島 見たいですねぇ…。

 

園長 もし、今から新しく保育園が出来るとするなら、自分がやりたい思いの詰まった理想の園舎にしてさ…ゼロから作り上げてみたいよねぇ。

 

福島 いつごろやるんですか?

 

園長 いつかねぇ?…(笑)

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福島 結構近い未来でしょ!

 

園長 どうかねぇ(笑)

 

福島 ふふふ(笑) けっこうやりそうだなぁ。

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園長 あとは人も育てないとね。自分の思いをちゃんとお手伝いしてくれる人がいないと上手くいかないから…。

 

福島 そうですよね。

 

園長 ここもこのスタイルになるまですごい時間がかかったし…理解者がいないと難しい。

 

福島 そうですね…。

 

未来の話は尽きない

 

福島 井草さんて、明るいし…懐が深い。

 

園長 そうなんだよねぇ…(笑)

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福島 そうでしょ?(笑)ほんとにね、そう感じるんですよ。あんまり厳しく、細かく言わないんだけど、たとえば俺なんかもさっき言ってたみたいに成長させてもらってるなぁとかってよく弟なんかと言ってた訳ですよ。けど、その割には…なんというか言わない。言われないって感じなんですよ。

 

園長 ああ、そこは自分でずるいとこだなって思ってるんだよ。たぶん厳しいこと言えないんだよ。

 

福島 そうなんですか。言わないようにしてるんじゃないんですか?

 

園長 そういうんじゃないんだよね。その代わり褒めることも上手じゃない。

 

福島 ああそうですか。俺いつもこう思うなぁ…

 

園長 うん。

 

福島 俺なんかいつも思うのが何と言うか…“言わない”というのに答えなきゃいけないと思うわけですよ。

 

園長 うんうん。

 

福島 要は井草さんがこれやってね!と言ったらそれやればいいじゃないですか。でも、こういう気持ちでいるみたいなところが結構強くてその気持ちにどうに答えるのって言われてる気がする。

 

園長 ああ試されてる…。

 

福島 そうです(笑)だから言わないのはたしかにうまいなぁって感じです。受け手からすると。でも、先生…これやりたいって言いましたよねえ?って言うことができないじゃないですか。思いに答えられてるかなぁ…ってのがずっと心にあるから。

 

園長 そこでさ、出来たものに対しても俺はそんなに「おお…これはすごい…最高だよ」みたいなこともあんまり言わないと思うんだよな。

 

福島 じゃあ…けっこうほめて貰ってる方ですね(笑)

 

園長 うーん…(笑)まぁほめてる部分もあるし、ここはもうちょいだと思うところはあるよね。

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福島 (苦笑)そうですよね。

 

園長 そこは取引って言うかさ、契約で動いてないというか…ホントはこの業界ってそこしっかりやらないといけないんだろうけど、あまりに厳しくやりすぎちゃうといいものは生まれてこないだろうっていうか。やっぱ、作品じゃない?

 

福島 はい。

 

園長 単なる構造物を作ってるわけじゃなくて、そこは子どもの生活の場であったりいろんな物語が生まれてくる場所だから、杓子定規に物事を進める事も大事な事なんだろうけど、それにこだわり過ぎちゃうと感動なんて生まれてこない。とにかくまずはアイディアだけ言って、それをもとにお互いの感性をぶつけ合って、ああじゃないこうじゃないとバトルして…。でも、その過程があるから最終的にいいものが生み出される…。

 

福島 そっか…いい話でしたね。

 

園長 お互い仕事に対するプライドが高いから、何を大切にしなきゃいけないってのがはっきりしている。そこでその価値観をどうしていくかって…

 

福島 守るよりも、どう広げるっていう話のほうが、結局は守ることになるというか…。

 

園長 最終的にはね。そうなるんじゃないかと思ってるけど。

 

福島 はい。今日はどうもありがとうございました。

 

話は尽きないようですが今日はここまで…。
未来を語る二人と成長する手形の壁の印象的な3ショットで今回はお別れです。

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